大吉が筧を認識したのは鉄道学校三年の春だった。
 何社も受けた鉄道会社の就職試験。その会場で常に見かけるライバルの一人が彼だった。
 どこにいても飛び抜けて目に付く長身と、理知的ながら洒落っ気のある風貌。別の鉄道学校の生徒会長だと聞いたときは、なるほどなと思った。ある会社の集団面接で、控えめながら独りよがりにならない、絶妙なリーダーシップを発揮していたのが印象に残っていたのだ。
 当然ながら、今の職場である東都電鉄の面接でも顔を合わせた。大吉と筧。アイウエオ順に並ばされた試験会場で、たまたま席が前後になった。
「よく会うな」
 席に着こうとしたところで声をかけられ、大吉は驚いた。就職試験会場だけで会うライバル。そんな認識しかなかったのに、人好きのする笑顔を向けられ、まごついた。
「就職、鉄道に絞ってんの? よっぽど好きなんだな」
「あんたこそ」
「オレ、鉄道学校行ってるんだよ」
 知ってる、という言葉を飲み込んで、
「おれもだ」
「あ、そうなの?」
 受験票を覗き込んだ彼が「だいきち?」と首をかしげた。
「ちがう。おおよし」
「縁起いいじゃん。あやかりたいな。オレ、ここが本命なんだ」
 屈託なくさらりと言うから、つい「おれも」と口を滑らせた。
「そうなのか? じゃ、来年には同僚かもな」
「そうなるといいな」
「筧だ。覚えといてくれ」
 ――そんな会話があったから、昨年、東都電鉄の入社式で彼と再会したとき、大吉は単純に喜んだ。四人いる同期の中で、現場職なのは筧と大吉の二人だけ。ライバル意識よりも彼と同じ職場で働けるのが楽しみで、うれしい気持ちのほうが強かった。
 実際、半年前まではとてもうまく行っていたのだ。筧も大吉も、似たり寄ったりの鉄道好き。たまに休日が合うときには、一緒に電車に乗りに出かけたりもした。