俺が帰国する前日、中沢さんは店を休んで日本の家族に買う土産を一緒に探しに行ってくれた。
 街の郊外にある大きなショッピングセンターには、母親や姉が喜びそうな洒落たショップが並んでいた。ハーブやフルーツで出来た石けんや蝋燭、民族衣装と同じ布で作られた細かい刺繍の入ったクッションカバーなど、中沢さんの見立てで買った土産は家族にとても喜ばれた。
 買い物に付き合って貰ったお礼に、中沢さんを誘って一階のカフェに入った。
 ドリンクを注文しぼんやりと外を眺めながら、明日には帰国するのだと思い寂しくなった。
「お土産はもう全部買えた?」
「はい。おかげさまで。付き合って貰ってすみません」
「良いよ。私も気分転換になったし。沢山買っていたね」
「スーツケースの重量制限が恐いですよ。うちの女達はみんな煩いから。省略出来なくて」
 家にいる母、姉二人に従姉妹と近所の友達の妹と。足りないと後から文句が出る。
「ふうん。彼女にも買った?」
「彼女は今居ないです!」
「そうなの? 健児は『可愛い』からもてそうなのに」
「そんなにもてないです。それに好きな人に好きになってもらわないと意味ないです!」
 俺は必死で彼女いないアピールをした。それに「可愛い」という表現も引っかかる。やはり年下だし一人前の男には見られてないのか。
「じゃあ。好きな人はいるんだ」
「……はい」
 貴方です。とは言えなかった。会ったばかりの俺がいきなり告白して、中沢さんに引かれてしまうのは嫌だ。
「片思いの相手なんだ。健児は真面目な良い子だからきっと上手くいくよ」
「『可愛い』とか『良い子』とか言われたくないです。俺はもう大人ですよ」
「そう? 気に障ったらごめんね。私は『可愛い』と言われるのも嬉しいから。つい」
 中沢さんこそ「綺麗」で「可愛い」と言う単語がよく似合う。俺が言われたら屈辱だと思ってしまう言葉も、さらっと流して喜べる態度は大人だと思った。
「中沢さんはどうして海外で働こうと思ったんですか?」
「さあ、たまたまあの仕事があったからやっているだけで。希望を持って就いたわけじゃないからね。結構行き当たりばったりなんだよ」
「日本に帰って仕事をするつもりはないんですか?」
「私にとってはここにいるのも日本にいるのも大して変わらないからね。日本に行きたいと思って仕事があれば働くかも知れないけれど。結局その時の巡り合わせかな」