俺の名前は木崎拓郎と言う。二五歳のとある私鉄の職員だ。今は駅員として働いている。仕事もプライベートも順調で、特に差し迫った問題は抱えていない。
 付き合っている人がいて、俺より五つ年上で篠田祐司と言う。有名大学を優秀な成績で卒業し、大手薬品メーカーの研究所で働くエリート社員だ。亡くなったご祖父母の古い木造住宅に一人で暮らしている。
 派手さはないが硬質で彫刻のような冷たく整った容姿と、華奢ではないが細く痩せた身体を持つ。表情に乏しいが、感情の欠片が不意に表れた時の生き生きとした表情は、とても可愛い。萌えツボに突き刺さる。
 そんな素敵な恋人は現在、俺の目の前で両手を畳につけて深く落胆していた。
 シャワーを浴びて居間を覗き込んだ俺は、見たこともない光景に驚いて入り口で立ち止まった。いつも冷静な祐司さんがこんなに落ち込んでいるのは珍しい。と言うか初めて見た。
「あの…祐司さん、どうしたんですか?」
 うなじから肩のラインにかけての美しさに目を奪われつつ、俺は恐る恐る声をかけてみる。
 祐司さんは、年が明けて会社で起こったトラブルを処理するため、家に寝に帰る事が出来ればラッキーという忙しい日々を過ごしていた。この家の鍵は貰っているので時間を見つけては飯を作りに来ていたが、いつ会っても疲れた様子で会話らしい会話も交わせずに三週間近くが経っていた。
 ようやく目処がついたと、二日の休みをもぎ取って帰宅した祐司さんを俺は両手を広げて出迎えた。