「キモビーンズって、言ったっけ……」
 コーヒー嫌いの和喜が、相手方の子とコーヒーを飲みに行っている。こころがざわめいていた。
「また、好かれてるのか……」
 ふと、脳裏に高校時代の和喜が蘇った。和喜は他人行儀で上辺だけしか優しくないのに、人気がかなり高かった。すべてお断りしていたのに、懲りずに毎年のバレンタインでは山盛りのチョコが贈られ、告白され、デートに誘われたりしていた。
 容姿も家柄も高得点、勉強も遊びも一級、大学を卒業したら名の通った企業に就職し、そこでも高評価を得られているとあっては、よく平々凡々の、ひょろりと大きいだけの自分と付き合ってくれていると落ち込むことが多々あった。
 いつか飽きられるかもしれない。誰かと結婚するからと別れを切り出されるかもしれない。不安なこころは日々育っていったが、受け止めなければならないものとして、巽は始めから諦めていた。
 しかし、
「和喜……」
 初めて、覆った。
 こぢんまりとしたコーヒー・バーに客は少なく、ふたり連れの姿はすぐに見付かった。
 辺りにはコーヒーをいれるふくよかな香りが漂っているのに、和喜は水面に面したテーブルに肘をついて、おかしそうに笑っている。向かい合わせに座る女性は、薄いオレンジのワンピースがよく似合う大人しそうなタイプで、遠目で見ても可愛らしいひとだった。一九〇センチの図体の自分とは比べ物にならないくらいに。
「違うだろ、男同士で並んでるのと比べるのは、おかしいだろ……」
 お似合いなふたりを見付けた瞬間、巽はこみあげてくる狂おしい感情に耐え切れず、その場に跪いた。
 何故、最初から諦められると、別れを受け入れられると信じていたのだろう。
 自分以外の誰にも、そんな笑顔を見せないで、好きだと言わないで、本当のこころを見せないで、触れさせないで。
 ――――誰も、愛さないでほしい。
 ごしごしと顔をこすり、巽はふたりに気付かれないようにタワーの通路へ戻った。