欠伸を堪えながら駅に降り立つと、日曜の朝ともあって、横浜行きの電車を待つ人々はまばらだった。何度来ても、この光景には寂しさを伴う。空白や寂寞を感じてしまう。それなりに愛着はあるのだが、大きくもなく、小さくもない、中途半端な駅。
 岸田はマフラーを巻き直して、改札へと向かおうとすると、薄汚れた白いベンチに座る青年がちらりと顔を上げ、再び本に視線を戻した。
 赤茶けた髪の彼は、二十歳そこそこだろうか。岸田が駅に着く頃合に、いつも同じベンチに靴を脱いで胡坐をかき、本を読んでいる。本好きが高じて出版社に勤務する岸田は、興味半分、通り過ぎる際にそれとなく開かれたページを窺うのだが、医療系だったり、小説だったり、プログラミング系だったりと様々だ。今日は今日で剱岳を写した山岳関係の写真集のようで、彼が指向する分野はどうなっているのかと、常々不思議なのだが、
「あ!」
 通り過ぎた直後、声が上がった。何事かと振り返ると、青年が紙袋を片手に、茫然と足許を見下ろしていた。
 ……これは、悲惨だ。
 青年は、バッグから紙袋を出したかっただけなのだろう。しかし底が脆くなっていたのか引っ掛かっていたのか、盛大に破れてしまったのである。それも、バッグから出した途端に。
 中途半端に破れるなら、まだいい。そして中身が文房具やメモ帳とか、予想内のものならさらにいい。しかし豪快に散らばっているのは、両手で抱えきれないほどの数の、
「チュッパチャップス……」
「…………」
 真っ赤になって動けないでいる青年の代わりに、岸田は腰を屈めた。突然のアクシデントは、正直可笑しい。けれど、ここで笑ってしまったら彼があまりに哀しい。
 堪えながらひとつひとつ拾い上げ、彼の隣の席に積み上げていくと、ようやく立ち直ったのか、スニーカーを突っかけて、一緒になって拾い始めた。同時に、バッグからビニール袋を出して、ベンチに積みあがったのを片付けていく。よほど好きなのだろう、いまも口から白い棒がはみ出ている。
「す、すみません。ありがとうございました」
「はい、これで終わりかな」
 そろそろと差し出す手のひらに乗せた最後のチュッパチャップスは、チョコバニラ味だった。